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長崎家庭裁判所諫早出張所 昭和61年(家)232号 審判 1987年8月31日

申立人 山口友義

相手方 上田喜美子 外4名

被相続人 林田タツ

主文

被相続人林田タツ所有の墳墓及び祭具の承継者を相手方田川友子と定める。

理由

第1申立ての要旨

1  被相続人は、昭和57年5月29日上記最後の住所地で死亡し、相続が開始した。

2  相続人は申立人(長男)のほか相手方5名である。関連事件の遺産分割調停で、申立人が祭祀承継者となるように、相手方らの同意を求めたが、相手方田川(次女)は自分が承継者となることを主張し、拒んでいる。他の相手方は傍観している。申立人は長男でありながら、弟があつたので被相続人の生家の名跡をつぐため、山口家に養子に出されたが、父、弟死亡により、長男として被相続人を事実上後見し、祖先の祭祀を執り行つてきた、相手方田川は他家の長男に稼し、住居は遠隔地にあり、田川家の墓は既に別に設置されている。墳墓管理は困難であるうえ、被相続人の墳墓を相続する必要もない。

3  被相続人は祭祀財産について承継者を指定せず、また、これを承継すべき慣習も明らかでないので、祭祀財産の承継者の指定を求める。

第2当裁判所の判断

1  本件記録とこれに関連する当庁昭和61年(家)第103号事件記録及びこれらの事件に関する調査の結果によれば、申立ての要旨記載の事実(但し、2項末尾の墳墓管理は~から最後までを除く)のほか、被相続人は、祭祀財産として、墳墓(長崎市○○町×××番地所在、長崎市○○町○○○第×××号○○、墓地8坪及び墓碑3基)、祭具(佛壇及び位牌(いずれも相手方田川保管中))を所有していたこと、が認められる。

2  ところで、被相続人が、祭祀承継者を指定していないとすれば、慣習によつて祭祀財産の承継者を指定すべきところ、申立人が調査官に対し考えを述べたように長男子において祭祀を主宰するとの慣習が長崎地方において存在すると認めるに足る証拠はなく、祭祀承継に関する長崎地方の慣習は明らかでない。そうすると、祭祀財産の承継者を決定するに当つては、被相続人との生活関係、被相続人の意思、承継者の祭祀承継の意思、能力、生活状況等一切の事情を斟酌すべきである。

これを本件についてみるに、調査の結果によれば次の事実が認められる。

(1)  相続人中、祭祀承継の意思を有している者は、申立人及び相手方田川友子のみで、他の相続人はこれを希望していない。

(2)  申立人は被相続人の実姉山口サエの養子となり、相手方田川は田川次郎と婚姻して、いずれも被相続人とは氏を異にしている。

(3)  申立人は、熊本県八代市に相手方田川は神奈川県茅ケ崎に居住し、いずれも本件の主たる祭祀財産である墳墓の所在地からは離れて生活しており、墓地の清掃等現実の管理は主として相手方上田喜美子が行つている。

(4)  申立人は会社役員、相手方田川は保育園調理師をしており共に祭祀能力に欠けるところはない。

(5)  申立人も相手方田川も各自で被相続人の法事等の供養をとり行つている。

(6)  相手方田川は本件祭祀財産である佛壇及び位牌を保管している。

(7)  被相続人は3基の墓碑を所有しており、この建立資金を相手方田川は負担していないにもかかわらず、このうち2基について建立者施主として林田友子(相手方田川の婚姻前の氏名)と刻印させている。この点についてこれ迄関係者から異議を唱えられたことはない。

(8)  申立人も相手方もいずれも被相続人と生活を共にし世話をしたことがあるが、被相続人は末子である相手方田川に最も親愛の情を有し、自ら希望して最後の約1年間を相手方田川の許で生活している。

3  以上認定の事実によれば、被相続人は、遺言等明確な形で祭祀承継者の指定はしていないけれども、墓碑に建立者として氏名を刻印させるという形で、生活関係の最も密接であつた相手方田川に祭祀を承継させるという意思を明らかにしていたものと認められる。また、他の相続人も被相続人の生前は、このことを肯認していたものと認められる。そうすると、申立人と相手方田川とは他の条件においては同等と認められるから、被相続人の意思の推認されるところで、これを決するのが相当と解される。

4  従つて、被相続人の祭祀財産の承継者を相手方田川友子と定めることが相当である。よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 小田八重子)

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